⑬ バケツ投下

息子が好きな釣り道具の一つに、バケツがあります。
付属の長い紐を手すりに括り付けて、海に投げ入れて、海水を引き上げ、釣れた魚を入れるバケツです。
息子は、あれを海に投げ入れるのが大好きで、自分の係にしていました。
なんだか嫌な予感がしていた私は、紐がきちんと括り付けてあるか、常に確認し、注意していました。

ある日の海釣りで。
帰り時刻となり、釣り道具を片付けていました。
手すりに括り付けていた紐を外し、後でしまおうとその場に置いておいた私の背後で、
「えー、なんでむすんでないのよぉー。」と叫ぶ声。
振り返ると、バケツがありません。
まさか・・・。
慌てて海を覗き込むと、浮かんでいました。黄色いバケツとそれに繋がれた長い紐がプカプカと。
たも網を持っていない私たち。施設のスタッフの方に借りに行きましたが、戻って来た時にはもう手遅れ。
海底へと沈んでいました。

息子よりも凹む私。
あんなにいつも注意して気にしていたのに・・・。
監督不足の自分を責め、息子にも八つ当たり。「なんで確認してから投げないの!」

だけど、後で冷静になって思いました。
いつもと同じように、ただバケツを勢いよく海に投げただけの息子。
いつもなら、括り付けられた紐がピーンと張って、落ちたバケツにつながっているのに、
そのまま紐がするすると海に落ちていく様子を見て、さぞびっくりしたことでしょう。
その時の驚きの表情を想像すると、なんだか可笑しくなってしまいました。
悪いのは私であり、息子ではありません。
「おこってごめんね。むすんでなくてごめんね。」と私。
それ以降、息子も私もお互いに注意するようになりました。
全ては学びです。