⑪ リビングで釣りごっこ

釣りに行かない日は、家のリビングで、釣りごっこをするようになりました。
振出竿を延ばし、ラインの先には、針なしルアーを付けます。
さすがにキャストは禁止なので、絨毯やクッションの上に軽く投げます。
「おっ!なにかかかったぞ!」
と、私の目には何もかかってないように見えるラインの先を巻き上げてくると、
息子の目には、キハダマグロやGTが見えてくるのです。

その頃、父親が、テレビ東京やBSで放映されている釣り番組をいくつか録画していました。
録画リストの中に、それらを発見した息子。
いつしか、その釣り番組を熱心に観るようになりました。

リビングでの釣りごっこは、そのテレビ番組に自分が出演しているという設定です。
「おはようございます。
 きょうは、五島列島の男女群島でキハダマグロをねらいたいとおもいます。 
 きょうのアングラーはぼく〇〇と、お母さんの△△です。よろしくおねがいします。
 では、まずは、タックルの紹介からですね。・・・」
という風に始まり、妄想の世界で様々な魚を釣り上げていきます。
1時間番組の設定の時は、きちんと1時間やり続けます。

これくらい、家でのお勉強も熱心にやってくれるといいのだけど・・・と思いながら、
息子を見ると、その横顔は真剣そのもの。
妄想の中の彼は、もうすでにプロアングラーなのです。

そして、気分がノッてくると、次第にキャストが激しくなってきます。
母親である私に、危ないからやめてくれ、と言われた息子、
針なしルアーの代わりになるのもはないかと、自分の宝もの入れを物色し、
柔らかいピーポくんのキーホルダーを発見。
以来、それを、キハダやGTのベイトとしたのでした。